指宿のキス(2)

2015年8月15日 小潮 晴れ

指宿のキス(1)


特別警報が鳴るほどの火山の麓、釣り上げた魚を調理しながら野外で酒盛りをしていた。


「すみません、仲間に入れてもらってもいいですか?」

大きなバックパックを背負った男が声をかけてきた。


どうぞどうぞ、と話しを聞くと、その男は趣味で噴火を追いかけているそう。


「今日は桜島が大きな噴火をするかもしれない本当に特別な日なんです。普段は千葉で塾の講師をしていますが、噴火のニュースがあると駆けつけるんです。今日も昼は授業をしていましたが、ニュースを聞いて最終の飛行機で鹿児島に飛んできました。」


これはヤバい男を宴に招いてしまった、と思いながら酒の肴に話を聞いていた。


「これから噴火口に登ってみようと思っていたのですが、みなさんがあんまりにも楽しそうだから、つい声をかけてしまいました」


あの・・それって危なくないんですか?


「考えてみてください。火山が噴火するなんて、数百年に一回なんです。僕らの一生はたかだか数十年、そんな中で噴火に出会えるなんて奇跡なんです。もちろん危ないですよ。これまでもテントの近くに軽自動車くらいの噴石が飛んで来たこともあります。」


そ、そですよね。立ち入り禁止になっていますが、どうやっていくんですか?


「立ち入り禁止といったって誰かが見張っているわけではないので普通に登って行きますよ(笑)」


ひとしきり飲んだ後、彼は礼を言って大きなバックパックを背負い真っ暗な桜島に消えていった。いまでも元気でいますように。


〜続く〜

※これはキスではなくカサゴです。キスは指宿のキス(3)を参照。

谷田晴彦 OFFICIAL WEBSITE

ビール片手に日常と物語の隙間を歌う釣り人

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